2014年1年間、文芸雑誌「文芸思潮」で「現代徴兵の青春―韓国の軍隊、その793日間の記録―」として連載されました。
誰よりも波乱万丈だった僕のリアルな軍隊の話をさらけ出します。
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軍隊と重なったワールドカップ
6月 2日
「6月だ。外は大騒ぎのようだ。韓国の善戦は嬉しいのだが、国全体がお祭りムードなのに軍隊でこうしている自分の境遇がかわいそうで、テレビを見ているとほろ苦い気分・・・。本当に韓国でワールドカップが開かれているのか実感がない。」
軍隊生活の2年2ヶ月間、挫折、屈辱、成就、失恋(彼女に振られて)、母への熱い思い、除隊の喜びなど様々な涙を流したが、(韓国では男は一生の間に3回しか泣けないと言われているのに・・・
ちなみにその3回とは1回目、オギャーと生まれた時、2回目、親が亡くなった時、最後は国が滅びた時。生まれた時に泣くのは当然のこと、一生の間、国が滅びる可能性はゼロに近い。
ということは、韓国では男は親がなくなった時以外は泣いてはいけない。それなのに、僕は一体軍隊時代だけで何回泣いたんだろう・・・)最も沢山泣いた過酷な時期は2002年の6月だった。
入隊して9ヶ月、一等兵になって4ヶ月目で、部隊の中で最もテキパキ働かなくてはいけない忙しい時期だ。それに、後輩の過ちで毎日のようにとばっちりもかかってくるなど、身体的にも精神的にも一番つらい時期だった。
ワールドカップを迎えたのはそんな時だ。そもそも無類のサッカー好きだった僕にとって、一生のうちで二度と来ないかもしれない自国でのワールドカップを軍隊で迎えること自体が不幸なこと。
覚悟はしていたが、そんなふうに日韓ワールドカップと共に過ごした2002年6月は、涙で始まって涙で終わった最も過酷な一ヶ月だった。
涙で始まり涙で終わったワールドカップ①
涙1回目。軍人の主な任務の一つに、24時間体制で部隊の主要施設を警戒・監視しなければいけない警戒勤務がある。
このスケジュールは各小隊の行政担当兵士が組むが、このスケジュールは兵長など先輩の影響力が常に強く、後輩が一番不利な時間に出番になりがちだった。
例えば、一日の仕事が終わってテレビを見たり、休んだりする時間に警戒勤務組になったり、夜間の不寝番勤務では、1時間ほど仮眠をとった後、夜の11時からの夜間勤務(軍隊での就寝時間は10時から)に引っ張られていったりなどもした。
ワールドカップが近づくや、ワールドカップの韓国戦が行われる時間帯に勤務に引っ張られていく、世界で最も不幸な男は一体誰になるのか、部隊では緊張が高まっていった。幼い頃からなぜかサッカーが好きで、国家代表チームの試合は何が何でも見ていた僕は、不安と心配で眠れない日々を過ごしていた。
そしてこの不安は現実に・・・予選の3戦全てを外で警戒勤務する羽目になってしまったのだ。幸か不幸か、韓国チームは奇跡的な善戦を繰り広げ、僕は外で歓声を聞きながら、怒りの涙をぽろりと流した。
涙で始まり涙で終わったワールドカップ②
涙2回目。もし韓国が予選突破できなかったら僕の2002ワールドカップはそのまま終わってしまっていたはず。
しかし、韓国チームの疾走はそこからが本番だった。しかしながら、イタリア戦がある6月18日はなんと2泊3日の野外訓練が重なっていた。
テントで宿泊する野外訓練ではテレビなど見れるはずがない・・・俺の不幸はどこまで続くのかと絶望していたが、部隊では野外訓練中の兵士たちも観戦と応援ができるようにテレビを用意してくれるという嬉しいニュースが届いた。
野外訓練中だったので警戒勤務もなく、部隊長も兵長も一等兵もみんなが一丸となって、歴史的なワールドカップ 韓国-イタリア戦を応援した。
僕らのこのちょっとした奇跡がスタジアムにも届いたのか、韓国はアディショナルタイムにゴールデンゴールを決め、準々決勝に進出した。
ぼろぼろの狭いテントの中で小さなテレビを見ながらみんなで応援したあの夜、僕らは歓喜の涙を流した。
僕らにも代表チームにも奇跡が起きたあの夜のテントの中での応援は一生忘れられない。
涙で始まり涙で終わったワールドカップ③
涙3回目。韓国は世界的なサッカー強豪のイタリアを破ってスペイン戦に挑んだ。緊張しながら勤務スケジュールをチェック、パクジョンヒョ二等兵は韓国チームのこの奇跡を見守ることができず、またもや神様に見捨てられてしまうのか・・・。
まあ、考えてみれば見捨てるか否かを決めるのは神様ではなく僕の先輩だったけど・・・。確認した結果、幸いに重要な後半戦、試合の半分は見ることができるスケジュールだった。
実は自国で開かれるワールドカップで新しい歴史を築いていた韓国チームを見ながら、嬉しかったけど、ほろ苦い感情は隠せなかった。
ワールドカップのため、入隊延期を考えるほどサッカーが好きだった僕、外でのあの熱気を肌で感じ、お祭りを楽しむことができない自分の境遇がもどかしくてテレビを見ながら胸の底がチクチクしていて苦しかった。
そして、スペインとの準々決勝。奇跡はまた起きた!韓国がスペインも破り、準決勝に進出したのだ。試合が終わり、テレビでは嬉しさのあまり涙を流したり、みんなが抱きあって熱狂する全国の様子を中継していた。
ある田舎の山際にあった部隊、そこの部屋は何故かため息があっちこっちから出てきて、一変暗いムードに・・・「外にいるやつらは羨ましいな。さあ、寝よう」機嫌が悪くなった先輩はテレビと共に電気を消した。
僕はあの歴史に残る試合をスタジアムで見るどころか、この祭りを楽しむことができないことが悔しくて、そんな自分がかわいそうで布団の中でまたぽろりと涙を流した。
除隊後、サポーターに
僕に3度も涙を流させた2002年6月の日韓ワールドカップ、僕は涙を流しながら、除隊したら本格的に国家代表チームの公式サポーターRED DEVILSの一員になろう!と心の中で強く誓った。
そして、そのもどかしい涙を忘れずに僕は除隊早々、RED DEVILSに入会。次のワールドカップでは応援団長として2万人の市民とともにワールドカップの歓喜と感動を満喫した。
全国民に感動の涙を贈った日韓ワールドカップ、僕も誰よりも沢山泣いたが、2002年6月の日韓ワールドカップは軍隊時代最も胸が熱くなった素敵な思い出として今でもきらめいている。
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